「スープの体温上昇効果と安堵感」と題して、体温と私たちの健康の関係、さらにそれがスープとどのように関係があるかについて、今わかっていることをお話させていただきたいと思います。
さっそくですが、今から30年ほど前のイギリスで、作為的に体温を下げると人間の能力はどう変化するかを測定した結果をご紹介します。
人間を15℃の冷水に1時間浸して、体温が低下してきて36〜36.5℃(水風呂に入る前よりも1〜1.5℃低い程度)になったところで、勉強と計算問題のテストをしてもらいます。
勉強は学生の試験勉強みたいに、文章を覚えてもらいました。具体的には体温が下がった状態で15個の文章を記憶させて、その1時間後(この時はもう平熱に戻っています)に思いだしテストをしました。
◆体温と記憶力の関係(テストの点数)
さて、結果ですが、体温が高いときに勉強した人ほどテストの点数が良かった。このグラフでは「平常体温時との記憶力の差」として表現していますが、水風呂に入って体温が低いときに勉強したときほど成績が悪い傾向が見られたという結果が得られました。
◆体温と計算能力(計算速度)
計算は、一桁の数字5個を足した答えを書くなど3種類の単純な足し算をひたすら解かせます。同じテストの体温と計算速度においても、体温が低いほど解くのに時間がかかる結果となっています。先ずは体温が低くなるほど、計算能力(一般的な学習や問題を回答する能力)は低下するといったことは言ってよいかと思います。
◆スープを飲んだ時の体温の変化
ここからはスープと体温の関係について調べたデータをご紹介します。
温度の異なるスープ(65℃と37℃)を飲んだ場合と、何もしない場合の体温の変化を示したものです。温かいスープを飲むと、だいたい60分、1時間くらい体温が高い状態が続くことがわかりますが、不思議なことが2つあります。
1つは、飲んだスープの重量と温度では説明しきれないくらい体温が上がっていることです。体温が上がった温度としては0.1℃と0.2℃の間くらいですが、お風呂の湯船に65℃のお湯をペットボトルで入れても、こんなに温度は上がらないと思います。
もう1つは、体温と同じぐらいの温度のスープを飲んだときでも体温が上昇しているところですね。いったいなぜでしょうか。それは、温かい食事から得られる熱量で体が温められるだけでなく、食事をすることそのものによるエネルギー、柴田先生が"食べるエクササイズ"と言っておられた「食事誘発性熱代謝」といった熱量や、飲み込む前から「感じる」感覚といったものが、実際の温度と同等かそれ以上に影響していると言われています。
◆足先温への影響
さきほど説明したカラダの中の深部温だけでなく、足先温。これは足の親指の先、寒い時に一番最初に冷えてくるところを測った結果です。
こちらもスープを飲んだときの体温が上がっていますが、先ほどの深部温よりもスープの温度による差が少なくなっているように見えます。
しかもこのスープありとなしの温度差は、2℃近くあって、1時間たってもスープを飲んだ時と飲まないときの差が縮まらないです。また、スープなしの足の指の温度はどんどん下がり続ける一方です。
ひざ掛けなどの保温機能のあるものを足に巻きつけて温めたわけじゃなくて、スープを飲むと足の指先が温まるのです。何故でしょうか。
実は足の指の様な体の末端に近い箇所は、そこだけを衣類で覆って温めようとしてもなかなか温かくならない。そこの部分に温かい血液を送り込んで中から温めないと、なかなか冷えた指先は元にもどらないんです。
◆体温アップに関連する要因
まとめますと、食べ物の温かさに加えて、感じる香りや目で見た感覚、さらには食べるといった行為そのものなどによって、最初にお話しした深部温といったカラダ中心に近い箇所がまず温かくなって、そこの血液が冷えた部分に巡って温まっていくと一般的に言われています。スープはその深部温をアップする温かさだとか風味やカロリーが豊富に含まれている食べ物だったんです。
◆液状食品の温度の保持時間
代表的な液状の食べ物が暖かい状態を保つことができる時間をあらわしています。
味噌汁やコーヒーは、作り立ては熱々でも、器に盛ると5分程度で冷えてしまいますが、スープは長い時間保ちます。約15分というと、ご家庭での朝ごはんやお昼ごはんを食べる時間にぐっと近づきますね。そのくらいの時間、温かい状態で食べることができる数少ない食べ物です。また、繰り返しになりますが、栄養素や風味といった体温を保つ要素が3拍子そろった数がすくない食べ物といえると思います。
◆カラダを中からあたためて成績アップ
ここまでのお話をまとめますと、暖かさや風味、カロリーといった体温を上げる効果を持つ食べ物であるスープを食べることにより、カラダの中から温まり、その結果として冷えた足が暖かくなり、試験の成績もよくなるのではないかということが言えるのではないかと思います。
◆スープ協会注釈:本セミナー開催直後の2014年12月に、実際にスープを食した後の体温上昇と計算能力(正答率・正答時間)向上を確認した論文が、日本味と匂学会より発刊されました。(「味と匂い学会誌21巻3号 249-252頁 Jpn.J.Taste Smell Res.Vol.21,No.3,pp.249-252 Dec.2014)
最後にスープとストレスの関係について少しお話をさせていただきます。
今のフルタニ先生のお話にもありましたように、スープを食べると何となく「ほっとする」感じを持たれる方は結構いらっしゃると思います。スープを飲むと何故「ほっとする」(安堵感)のかを調べた文献がありましたので、この場で紹介させていただきます。
◆スープの安堵感への影響
これは、2010年に兵庫県の先生が調査された結果ですが、スープを飲むと「安堵感」いわゆる「ほっとする」気分があがります。
味によって多少の違い(コーンスープとコンソメスープ)はありますが、スープを飲むとリラックスというか、ほっとする気分になれて、それが結構長続きするという、大変わかりやすいデータが確認されています。
◆安堵感と満腹感の関係
このときに、偽物のスープも一緒にもちいた満腹感を感じるかどうかの調査も同時に実施されていました。同じ栄養量でも風味が豊かなスープで食べると満腹感が大きくなるといった内容です。スープを飲んだ時に安堵感と同時に満腹感が感じられ、どちらも結構長続きするみたいです。
◆副交感神経への影響
もう一つ、同時に測定された項目があります。それが「副交感神経」なのですが、「副交感神経」とは寝ている時など身体の活動が低下する時に、無意識に働く神経ですが、スープを飲んだ直後からしばらくの間、この神経の活動が低下しています。副交感神経の活動が低下するというのは、どちらかというと気分が落ち着く「ほっとする」感じや「リラックス」とは逆の様な気もしますが、これがスープの特徴と言えます。一般的にはご飯を食べると副交感神経の活動が上がり、眠くなりますが、スープを食べたときは適度な緊張感や意欲を持ちつつ、平常心を保ってリラックスしている感じになるかといえます。また、コーヒーでも同じように、副交感神経の活動が低下するのですが、興奮傾向となってしまうということが知られています。
以上をまとめると、スープを飲んだあとでは、満腹感が増し、副交感神経が変化するのですが、この変化が安堵感(いわゆる「ほっとする」感じ)と連動しているということになります。